問題 9★★☆

金融機関の社員が、業務で使うオンラインシステムの端末を操作し、入金の事実がないのに 自分の口座の残高を増やす記録を作った。この行為が刑法の詐欺罪ではなく 電子計算機使用詐欺罪の対象になる理由として、最も適切なものはどれか。

正解:エ

各選択肢の解説

  1. アコンピュータを使った不正は、通常の詐欺よりも重く処罰する必要があるため。

    誤り。電子計算機使用詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、詐欺罪と同じです。 「コンピュータ犯罪だから重い」という印象で選びがちですが、この罪は刑を重くするためではなく、 詐欺罪では拾えない行為を拾うために設けられています。

  2. イ他人のIDとパスワードを使ってシステムに入る行為を処罰する必要があるため。

    誤り。それは不正アクセス禁止法が扱う不正アクセス行為です。システムへの不正な操作という点で 重なって見えますが、この社員は業務で使う自分の端末を操作しています。電子計算機使用詐欺罪が 見るのは「入ったか」ではなく、不実の記録を作って財産上の利益を得たかです。

  3. ウシステムを止めて金融機関の業務を妨げる行為を処罰する必要があるため。

    誤り。それは電子計算機損壊等業務妨害罪が扱う行為です。どちらもコンピュータに虚偽の情報や 不正な指令を与える点が共通するので混同しやすいのですが、こちらは業務の妨害、 電子計算機使用詐欺罪は財産上の利益の取得に着目します。この場面ではシステムは止まっていません。

  4. エ詐欺罪は人をだますことが前提で、だまされた人がいない場合に対応するため。

    正解。詐欺罪は人を欺いて財物や利益を得る罪で、機械は「だまされる」ことがありません。 人を介さずにコンピュータに虚偽の情報を与えて利益を得る行為を処罰するために、別の条文が置かれています。

理解を深めるために

機械は「だまされない」から別の罪がある

窓口の行員にうそを言ってお金を引き出せば、行員がだまされているので詐欺罪です。 ところが、行員を通さずに端末から直接「入金があった」という記録を作った場合、 だまされた人はどこにもいません。詐欺罪は「人を欺く」ことが成立の前提なので、 このままでは処罰の対象から漏れてしまいます。この穴を埋めるのが電子計算機使用詐欺罪です。

何が処罰されるのか

刑法第246条の2は、詐欺罪(第246条)の「ほか」の場合として、次のような行為を定めています。

  • 人の事務処理に使う電子計算機に、虚偽の情報や不正な指令を与えて、 財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作る
  • または、財産権の得喪・変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理に使わせる
  • それによって、財産上の不法な利益を得る(他人に得させる)

入金の事実がないのに残高を増やす記録を作る行為は、その典型です。法定刑は詐欺罪と同じ 10年以下の拘禁刑で、刑を重くするための罪ではありません。

混同しやすいものとの違い

罪・行為 何に着目しているか
電子計算機使用詐欺罪 コンピュータに虚偽の情報を与えて財産上の利益を得る(人をだましていない)
詐欺罪 人をだまして財物や利益を交付させる
電子計算機損壊等業務妨害罪 コンピュータの動作を狂わせて業務を妨害する
不正アクセス行為(不正アクセス禁止法) 他人のID・パスワードなどで、制限されたシステムを使える状態にする

試験では「だまされた人がいるか」と「得たのが財産上の利益か、業務の妨害か」の2点で見分けます。 業務で正規に使っている端末からの操作でも、事実と違う記録を作って利益を得れば対象になる点も押さえておきましょう。

前の問題へ次の問題へ