問題 11★★★

社内規程で情報セキュリティ研修の受講が義務付けられている会社で、営業部の課長が、 人事部の担当者が離席した隙にその端末を無断で操作し、受講していない部下を「修了」とする 記録を受講管理システムに登録した。課長は内部監査で、その記録を受講の証拠として示した。 この行為に当たる刑法上の罪として、最も適切なものはどれか。

正解:ウ

各選択肢の解説

  1. ア電子計算機使用詐欺罪

    誤り。これは、コンピュータに虚偽の情報を与えて財産権に関する不実の記録を作り、 財産上の不法な利益を得る罪です。事実と違う記録を作る点は共通しますが、この場面の記録は 研修の受講という事実を示すもので、お金や財産上の利益は得ていません。

  2. イ支払用カード電磁的記録不正作出等罪

    誤り。これは、クレジットカードやキャッシュカードなど支払用カードを構成する電磁的記録を 不正に作る罪です。「電磁的記録を不正に作る」という言い回しが同じなので紛らわしいのですが、 対象は支払用カードの記録に限られます。研修の受講記録は対象外です。

  3. ウ電磁的記録不正作出及び供用罪

    正解。人の事務処理を誤らせる目的で、事実証明に関する電磁的記録を不正に作る罪です。 権限なく修了の記録を作り(不正作出)、監査で証拠として使わせた(供用)点が当てはまります。

  4. エ電子計算機損壊等業務妨害罪

    誤り。これは、コンピュータやデータを壊したり不正な指令を与えたりして本来の動作をさせず、 業務を妨害する罪です。システムに無断で入力した点で連想しやすいのですが、受講管理システムは 入力どおりに正常に動いており、業務が止まったわけでもありません。

理解を深めるために

紙の書類の偽造を、データに置き換えた罪

修了証を紙で発行していた時代なら、受講していない人の修了証を勝手に作るのは文書の偽造です。 いまは修了の事実をシステムのデータで管理しているので、同じことはデータの上で起こります。 事務処理に使う電磁的記録を不正に作る行為を、文書偽造と並べて処罰しているのが、 刑法第161条の2の電磁的記録不正作出及び供用罪です。

何が処罰されるのか

  • 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理に使う権利・義務または事実証明に関する電磁的記録を 不正に作る(不正作出)
  • 不正に作られた記録を、同じ目的で人の事務処理に使わせる(供用。未遂も処罰)
  • 公務所・公務員が作るべき記録に関するときは、刑が重くなる

研修の受講状況は、受講したという事実を示す記録です。登録する権限のない課長が修了の記録を作り、 内部監査という事務処理で証拠として使わせた点が、不正作出と供用の両方に当たります。

情報セキュリティの担当者としては、記録の登録・変更の操作者をログで追えるようにすることと、 離席時に画面をロックする運用(クリアスクリーン)の徹底が、こうした不正を防ぐ手当てになります。

混同しやすいものとの違い

罪 不正に作る・使う対象と目的
電磁的記録不正作出及び供用罪 権利・義務や事実証明に関する記録。事務処理を誤らせる目的
支払用カード電磁的記録不正作出等罪 クレジットカードなど支払用カードを構成する記録
電子計算機使用詐欺罪 財産権に関する不実の記録。財産上の利益を得る
電子計算機損壊等業務妨害罪 記録を作るのではなく、コンピュータの動作を狂わせて業務を妨害する

記録を不正に作る罪は、「何の記録か」と「何を得たか」で見分けます。 支払用カードなら専用の罪、財産上の利益を得たなら電子計算機使用詐欺罪、 それ以外の事務処理用の記録なら電磁的記録不正作出及び供用罪です。

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